せせらぎを登る谷間に現れるカフェのような家。アンティーク調に整備された玄関や木目の手触り感がアクセントになった外観が目を奪います。モノづくりが大好きな奥様が叶えた理想の住まいには、ご夫婦の長年の生き方、そして「住まいを自分たちで育てていきたい」という想いがしっかりと反映されていました。奥様に家づくりのストーリーを語っていただきました。
自然な素材の手触りが大好き。
年月とともに味わいを増す
木の家にしたかった。
履き慣れたジーンズのようなざっくりとした雰囲気が好きなんです。皮や木とか「傷がつくことでより素材の雰囲気が増していくもの」です。ピカピカした家よりも、年月を経るにつれ傷や汚れが雰囲気を出すような家…。木に囲まれたような、無垢の木肌がたくさん見える家にしたかったんです。
子どもの頃から「モノづくり」が好きでした。いろんなモノの作り方に興味を持ったりしていくうち、小物や洋服も作りはじめ、ますます「手づくり」が好きになり、パタンナーの仕事に就きました。結婚して賃貸に暮らしはじめても、自分で家具や壁をつくっていました。「まず自分でつくってみたい!」って気持ちがずっとあるんです。だから絶対にマイホームは、自分で手入れをするような家にしたかったんです。自分で育てていく家を夢に描いていました。
最初にぶつかった壁
「要望が伝わらない!」…。
解決の糸口となった
「土地」との出会い。
生まれ育った街に住み続けたいから土地を探しはじめました。いい土地を見つけると、地元ハウスメーカーさんの建築条件付き。そこで、そのメーカーさんを訪問したんですが、私たちの希望が伝わらないんです。ログハウスやプロバンス風の住まいにしたい。無垢の木を使いたい。既製品のドアや部材ではなく、自分たちで探してきたものを使いたい。サッシではなく木枠の窓にしたい。クロスじゃなくて自然な漆喰の壁がいい。これらを担当者さんに説明すると、もう「お手上げ状態」…。どれもできないか、追加料金って話になりました。
自分たちで内装や壁の作業をしたいという要望も「引き渡しまで(現場に)入ってもらっては困るんで」という答えの一点ばり。まともに取り合ってもらえない感じで、とっても残念な気持ちでした。
替わりに見せてもらった見本のインテリアも、ドアとかカッチリしすぎてて、どれもピカピカで。カントリー風という商品も過剰にかわいすぎたり。話がまったくかみ合わないので、これはムリだなってがっかりしました。私、そんなに難しいことは言ってないと思うんですけど、もう、ぜんぜん伝わらなくて、悔しかった。
そんなある日、家族で出かけた公園の帰り道に、川沿いに売地を見つけました。住宅と崖の間にある細長い荒地ではありましたが、大好きな街も一望できて「面白くなりそう」な場所だと思いました。建築条件がなく、自由に建築先が選べることがわかりました。その時、以前から気に留めていた、太昭組に勤務していた知人に相談することにしました。
知人のことは最初から意識していましたが、太昭組の家はスタイリッシュなイメージがあって自分の建てたい家とは違うという想いがまずありました。それに、相談すると断れなくなる気がしてずっと遠慮していた面もあります。でも、もうこれが最後のカードという意気込みでした。相談してみると「ナチュラルテイストの家もできますよ」とのお返事。選んだ素材も使えるし、自分たちでの作業もOK。「わがままが言えるんだ!」とうれしくなりました。探し当てた土地には、がけ地の制限があって不安もあったのですが、太昭組さんは土木部門もお持ちなので、うまく対応していただきました。
シンプルで自由度の高い「箱」の家、
それが私たちの要望を理解した
太昭組さんの提案でした。
太昭組の建築士、迫谷さんとの打ち合わせでは、当初はログハウス風やプロバンス風の家もイメージしていました。でも、迫谷さんは「人の嗜好は変わるし、シンプルなほうが、いろんなものを合わせやすいですよ」とおっしゃって、結果的にはシンプルな「木の箱」に。私たちがお気に入りの家具を持っていることや、内装や家具も自分たちで作りたいという気持ちも理解いただいた上での提案だったと思います。
子どもの頃、生まれ育った実家には、大工道具が備えられた机がありました。父がモノづくりが大好きな人で、不器用ながらも車庫や廊下を自分で作ってしまうほど(笑)。その無骨な手づくり空間で過ごすのが大好きで、その場所から「自分で作れるものは作って使う」ことを学んだような気がします。子どもの頃の私も決して器用とはいえませんでしたが、見よう見まねで石鹸箱を切り貼りしてミニチュアの家を作ったりしていました。自分の部屋も押入れをとっぱらって大きな空間にしていました。
でも、高校生ぐらいの時に実家が建て替えになりました。ハウスメーカーさんの立派な注文住宅の家になったんです。注文住宅の多くは「傷つかない」「手入れがいらない」ピカピカしたニスが塗ってあるような素材が多いと思うんですが、それって手を加えられない「完成したもの」と思います。そんな傷がつくと目立つような立派な家になって、なんだか窮屈に思ったことを覚えています。実家が手を加えられなくなったので、私は仕方がなく模様替えで頻繁に部屋の雰囲気を変えていました。そういう経験が「自分でつくりたい」という思いになっていったんだと思います。
迫谷さんのアドバイスで、無垢の木をふんだんに使った、シンプルなつくりの「箱」になったことで、やりたかった内装や棚、外構などの手作業も家族みんなで楽しめました。工事で使った足場板を残してもらって、テレビ台などの家具や棚をつくりました。最初、家具は少なかったんですが、自分たちで作って揃えて行ったんですよ。子供部屋も仕切りのない大きな空間にしてもらい、自分たちで足場板と社宅で余っていた窓枠を使って作りました。
主人は最初、DIYにはあまり興味がなく、私の手伝いをしているだけだったのですが、そのうちDIYに目覚めてしまって、倉庫やバイクの車庫を一緒に増築したぐらいです(笑)。興味なさそうに見えた子どもたちも、お友だちが来ると「これもこれも作ったんよ」と自慢していますから、きっと気に入っているんでしょう。完成した今では「シンプルな箱の家」でよかったなぁと思ってます。